統計数理研究所

2023年6月9日 (Ver. 1.0.9-1)

[Japanese/English]

1. はじめに

 SASeis (Statistical Analysis of Seismicity) は,統計数理研究所で開発された地震活動などの統計的解析とモデリングのためのプログラムパッケージである. このパッケージは,TIMSAC84-SASE Version 2, SASeis-W (Windows版 SASeis), IASPEI-SASeis-VB (SASeis Visual Basic) とSASeis2006とをまとめたものである.中でもTIMSAC84-SASE Version 2とSASeis2006はFortran77で書かれたプログラムであり,特にその計算結果の出力ファイルはフリーソフト Rを使ってグラフィックス表示が可能な形式になっている.一方,Rはフリーな統計処理言語・環境であり,豊富なグラフィック関数とFORTRANやCのサブルーチンを簡単に呼び出せるインタフェースも備えている.そこでFORTRANで書かれたTIMSAC84-SASE Version 2とSASeis2006の計算処理機能をライブラリ化することにより,必要であればその解析結果を直接グラフィック表示できるようにした関数群がRパッケージSAPPである.

 TIMSAC84-SASE Version 2と SASeis2006は Computer Science Monographs No.32, No.33に発表された.TIMSAC84-SASE Version 2は,TIMSAC84 Part 2 (Computer Science Monographs No.23) に発表された点過程の統計解析プログラムのGPSLによるグラフ出力部分を削除し単純化した改良版である.また,SASeis2006では大森・宇津の公式と点過程ETAS (Epidemic Type Aftershock Sequence) モデルを扱っている.ETASモデルは大森・宇津の公式(余震の頻度関数)に地域性を加味し拡張・発展させた地震活動の標準化モデルであり,世界各国で使用されている.この標準モデルによる予測と実際の地震発生頻度とを比較することによって,その地震活動の変化すなわち静穏化や活発化などの特徴を捉えることができる.


2. パッケージの関数

 TIMSAC84-SASE Version 2とSASeis2006に含まれるFortranの各ソースファイルに対応した以下の関数が用意されている.
ただし,eptren.f と pgraph.f はどちらにも含まれているが,SASeis2006の改良版を利用した.

ptspec() :

  定常ポアソン過程の周期成分検索における重要な帯域の点過程スペクトル解析を行う

linlin() :

  他の点過程入力,周期的成分とトレンド成分をもつ自己励起型点過程の線形強度モデルの最尤推定値を求める

simbvh() :

  相互励起型二値のHawkes点過程のシミュレーション

linsim() :

  自己励起型点過程のシミュレーション

momori() :

  余震発生率の時間的減衰を表す大森・宇津の公式のパラメータの最尤推定値を求める

eptren() :

  強度関数が指数多項式または指数フーリエ級数である非定常ポアソン過程におけるパラメータの最尤推定値を求める

etasap() :

  ETASモデルのパラメータの最尤推定値を求める

etasim() :

  ETASモデルに基づいた地震データのシミュレーション

pgraph() :

  点過程データまたはその残差データの基本的な統計上の性質をグラフィック表示する

respoi() :

  momori()によって求められた最尤推定値をもつ大森・宇津の公式を使って地震の発生時刻を変換した残差を求める

etarpp()

  etasap()を使って求められた最尤推定値をもつETASモデルを使って地震の発生時刻を変換した残差を求める


実行例

eptren()を使って強度関数をトレンド(傾向)と周期性で表現した場合の地震強度率をグラフに表した例を示す.

eptren()の実行結果1 eptren()の実行結果2

また,次の図からは etarpp()を使ってETASモデルにより予測した地震活動(赤)が実際よく当てはまっていることがわかる.
もし実際の地震発生頻度が予測より上方ならば活性化,下方ならば静穏化を示すことになる.

etarpp()の実行結果


3. Rのインストール

 ここでは,Windows版 Rのインストール方法について簡単に説明する.Linux版や他のバージョンのインストール方法については,RjpWiki を参照のこと.

  1. CRANのホームページ (https://cran.r-project.org/) または 統計数理研究所のミラーサイト (https://cran.ism.ac.jp/) からRのインストーラーをダウンロードする.

  2. ダウンロードした実行ファイル (例えば R-4.2.3-win.exe) を開きインストーラを起動する.表示画面に従ってセットアップに使用する言語を選択「Japanese(OK)」し,セットアップウィザードを開始し完了画面まで進み「完了」をクリックする.


4. パッケージ SAPPのインストールとロード

 本ページからは,SAPPパッケージ のWindows用バイナリファイル,Linux用のソースファイルがダウンロードできる.これらはそれぞれ Windows11 の下で R-4.2.3, Ubuntu 22.04 の下で R-4.3.0 を使ってテスト,ビルドしたものである.
なお CRANの拡張パッケージ (Contributed Packages) として登録されており, macOS用のバイナリはこちら のサイトからダウンロードできる.

4.1 Windowsの場合
  1. バイナリファイル SAPP_1.0.9-1.zip を適当なフォルダにダウンロードする.

  2. メニュー [Packages] から

       –> Install package(s) from local zip files…
       –> Select files で ダウンロードした SAPP_1.0.9-1.zip を選択.
  3.  
  4. メニュー [Packages] から

       –> Load Package..
       –> Select one で SAPP を選択.
4.2 Linuxの場合
  1. ソースファイル SAPP_1.0.9-1.gz を適当なディレクトリにダウンロードする.

  2. ターミナルで R を起動し,

      > install.packages(“ダウンロード先のパス/SAPP_1.0.9-1.tar.gz”, repos=NULL)

     を実行してインストール.

  3. SAPP をロードする.

      > library(SAPP)


5. ヘルプの使い方と実行例

 パッケージの概要については,

   > help(SAPP)

関数の利用方法については,例えば eptren() の場合

   > help(eptren)

関数のモデルについての説明書(pdf)は

   > vignette(“SAPP”)

で参照できる.

リファレンスマニュアルのダウンロードは こちら



6. 参考文献

[1] H. Akaike, T. Ozaki, M. Ishiguro, Y. Ogata, G. Kitagawa, Y. Tamura, E. Arahata, K. Katsura and R. Tamura (1985).
TIMSAC-84 Part 2, Computer Science Monographs, No.23, The Institute of Statistical Mathematics, Tokyo.

[2] Y. Ogata, K. Katsura and J. Zhuang (2006).
Statistical Analysis of Series of Events (TIMSAC84-SASE) Version 2, Computer Science Monographs, No.32, The Institute of Statistical Mathematics, Tokyo.

[3] Y. Ogata (2006). Statistical Analysis of Seismicity - updated version (SASeis2006), Computer Science Monographs, No.33,
The Institute of Statistical Mathematics, Tokyo.


本パッケージに関するバグ報告等がありましたら ismrp(at)grp.ism.ac.jp 宛お寄せ下さい.